更新日:2016年04月10日
文芸メディア専修
受験生へのメッセージ(福嶋 伸洋)
Q:ブラジルに留学していたんですか?
A:23歳の2月から、リオデジャネイロに1年間、滞在しました。ボサノヴァを演奏するサークルで弾き語りを始めたのがきっかけで、ブラジルに、とくにボサノヴァが生まれたリオに行ってみたくなりました。ボサノヴァの詞のなかで、リオは楽園のような街として描かれていたので、素朴な憧れを抱いていました。もちろん、危険があるということも知識として知っていましたが。
大学3年生のときにポルトガル語を学び始めたのですが、それまでにフランス語の文法をひととおり学んでいたので、わりと簡単でした。共立では今のところポルトガル語の授業を持っていませんが、NHKラジオ?ポルトガル語講座を担当しているので、学びたいひとはぜひそちらをチェックしてみてください。
Q:これまでどんな研究をなさってきましたか?
A:『魔法使いの国の掟――リオデジャネイロの詩と時』という題の博士論文が2011年に単行本として出ています。このなかで、リオの詩人たちの作品に現れる saudade(郷愁)の感覚をめぐる詩想を読み解きました。ブラジルの文化は現在でも、異国趣味、熱帯趣味とでも呼ぶべきまなざしのもとに捉えられることが多いと思います。もちろんその側面もあります。
いっぽうで、あまりそういう印象は抱かれないと思うのですが、ブラジルもヨーロッパ文明圏のなかにあるので、ブラジル文学もヨーロッパの文学や思想と結びつけて考える必要があります。この本は、そのような視野のなかにリオデジャネイロの詩を置いて思索する、という試みでした。
Q:小説の翻訳も出されているとか。
A:マリオ?ヂ?アンドラーヂという作家が1928年に出した『マクナイーマ――つかみどころのない英雄』という小説の翻訳を、2013年に出しています。この作品のなかでは、作家自身がブラジル人のイメージを誇張して、自虐ぎみにブラジル人の肖像を描いています。主人公のマクナイーマは、怠けもので、ずる賢く、女たらし、しかしあくまでも純真で、どこか憎めない……。一世紀近く前に書かれたとは思えない、破天荒な、スラップスティックめいた悲喜劇になっています。
Q:どんな授業をなさっていますか?
A:講義の授業では、ポップミュージックや長篇アニメーションやMV(ミュージックヴィデオ)といった、ポップカルチャーを扱うことが多いです。最近では、ビートルズやマーヴィン?ゲイの歌、ジブリやディズニーの長篇アニメ、テイラー?スウィフトやアリアナ?グランデのMVを取りあげました。
自分の研究では、ボサノヴァのある詩を読み解くとき、ひとつの単語、ひとつの表現について、その背景にある思想や文化、社会や時代と結びつけて考えていくという作業を行います。同じ手法は、いわゆる文学作品だけでなく、ポップミュージックの歌詞、映画、アニメやMVの映像に当てはめることができます。既存の学問領域が扱わないさまざまな文化現象について、どのように思考することができるか、その例を提示することを楽しく感じています。
そして、そのような知的関心の持ち方を、〈文芸教養〉という言葉は、可能性として指し示しているように思います。
Q:演習(ゼミ)の授業はいかがですか?
A:ゼミでは、学生がやりたいことをやってもらうようにしています。講義とはちがって、こちらが引っぱってゆくのではなく、こんなことをやりたいというゼミ生からの提案や意志表示に対して、それがよい形になるよう手助けするのが教員の仕事だと思っています。まだまだ試行錯誤しているところですけどね。ちなみに2015年度は、毎週、メンバーが関心のあるテーマの文献を読んできて、授業時にディスカッションをするという方法を取りました。
あと、何かおもしろそうなことを思いつくとすぐに実践してみたくなるので、学生たちは楽しんだり、振り回されたりしています(笑)。これまでに、ラジオ番組を作ったり、音楽の紹介動画を作ったり、外国語の歌の日本語詞を作ったり、DJ機材にさわってみたりしました。これからもいろいろやりたいと思っています。