更新日:2016年09月20日
文化専修
文芸学部 准教授 福嶋伸洋先生の新著が刊行されました。
書名:『リオデジャネイロに降る雪』
著者名:福嶋伸洋
出版社:岩波書店
ISBN:978-4-00-025573-8
この『リオデジャネイロに降る雪』は、ぼくが20代の初めに、文学と音楽の研究をするためにリオデジャネイロに滞在した一年間の記憶、そしてその後、日本に帰ってきてからのブラジル人との出会いを書いた本です。
緩やかな弧を描くコパカバーナ海岸、バラック小屋の立ち並ぶファヴェーラ、ボサノヴァの儚い幸福の時代、暗闇の軍政時代とそれに立ち向かった歌手たち。この本のなかで、あまりにも遠く、気軽に訪れることのできないリオの街を、旅することができるかもしれません。
とはいえこの本はぼく個人の回想という形を取りながら、祭りと郷愁という、誰にとっても大切なふたつの時間感覚を、メビウスの環のように結び合わせて捉える試みにもなっています。
60年代の終わり頃にニューヨーク州の田舎町で、あまり知られることのないまま活動していたザ?フリーデザインというバンドの歌に、“Tomorrow is the first day of the rest of my life”(明日は残りの人生の最初の日)という言葉があります。
それに倣えば、“Today is the last day of something in my life”(今日は人生のなかで何かの最後の日)ということを、ぼくはこの本で言いたかったのだと思います。
若いときにはあまり気づくことはないのですが、わたしたちが過ごしているどんな一日も、かけがえのない、二度と同じ形で繰りかえすことのない経験に満ちた日として過ぎていきます。
わたしたちの記憶は驚くほど豊かなもので、何気なく過ぎ去った、何もなかったとそのときには思えた一日のことが、ずっとあとになってから、限りなく幸せな時として思い返されることがあります。
このことに気づいて、遠い未来から現在を、先取りされた「郷愁」の想いとともに振り返って見れば、どんなに些細な一日、どんなにありきたりの一日も、一生に一度だけの「祭り」の時になるのかもしれない。
この本のなかの“Everyday is a party day”(毎日が祭りの日)という言葉には、そんな想いを込めています。
ところで、常夏の街リオには、実際には雪は降りません。夢か幻のような「リオデジャネイロに降る雪」が何なのかは、ぜひ本を読んで確かめてみてほしいなと思います。