Faculty of International Studies
更新日:2017年10月28日
【国際学部】リレー?エッセイ(19) 西村めぐみ「アメリカの大学院を目指すみなさんへ―経済学の場合―」
西村めぐみ
今日は、アメリカの大学院博士課程の仕組みを簡単に紹介したいと思います。これから紹介する内容は、アメリカコロラド州ボルダーにあるコロラド大学の大学院 経済学の博士課程という事例で、別の大学や別の分野で当てはまらないことも多々あるかと思いますが、これからアメリカの大学院を目指す方の参考になれば幸いです。
アメリカの大学院の入学審査は、書類審査で行われます。書類審査で提出を求められるものは、成績書?TOEFL?GREのテストスコア?そして3名~4名から書いて頂く推薦状です。大学によって学業成績GPA?TOEFL?GREには最低基準が設けられており、最低基準をクリアし、かつ入学できるよう少しでもましなテストのスコアを取るために私の場合何度もテストを受けました。お金?時間?気力が必要です。大学院の入学審査で重要なものが推薦状です。私の場合、アメリカ?カナダの少なくとも10校以上の入学審査に応募しましたので、その度に指導教官の先生方に推薦状を書いて頂くのは心苦しい限りでしたが、推薦状の力で合格通知を手にすることが出来ました。今でも、当時推薦状を書いて下さった先生方を思うと感謝の思いで一杯になります。
大学院の合格通知が来たら余り喜ぶ間もなく資金調達に奔走することになります。これは、経済学の場合に限るのですが、経済学の場合大学院1年目で一定の成績を修めれば2年目から大学院の方でTA (Teaching Assistant)又はGPTI (Graduate Part-Time Instructor)として雇ってくれ、授業料が30%~100%減額になり、かつ毎月少ないもののお給料も出るというシステムになっています。ゆえに、経済学で大学院の博士課程に行く場合は、1年目の授業料+生活費だけ奨学金、もしくは自己資金で準備しておけば経済的には留学可能となります。ただ、私の場合日本の大学院で獲得した成績が全くパッとしない成績でしたので奨学金を獲得することが出来ず大変でした。1月位に大学院の合格通知をもらい、同じ年の8月に入学する予定だったのですが、資金調達できず、合格しても1年間入学を猶予することが出来るという制度を使い、留学を延期して猶予期間の1年間の間に資金調達に奔走することにしました。私は幸いにも資金を貸して下さる恩人が現れましたので大学院留学という目標を叶えることが出来ましたが、学業成績がもっと良ければ奨学金を獲得出来、資金調達に苦労することはなかったと思います。これから大学院進学を考えていらっしゃる皆さんは、目先の成績をどうか大事にしてあげて下さい。
大学院の講義は8月下旬からスタートするのですが、入学前にMath Campという2-3週間くらいの数学詰めの集中講義が毎日行われます。毎日、午前中から夕方まで経済学に関連のある数学ばかりの講義を受け、Math Campの終わりにテストを受けます。そのテストに合格しないと新学期の授業で受講に制限が出てくるため最初のスタートからかなりハードで、テストに合格しましたがこれから始まる厳しい大学院生活のシグナルをビシビシ感じていたのを覚えています。Math Campで衝撃を受けたのは、その内容ではなく、アメリカの試験の仕組みです。試験の時には問題用紙?解答用紙が配られることを当然のことと予測して試験に臨んだのですが、驚いたことにアメリカの試験では、通常解答用紙は自分で持参せねばならないのです。真っ白の紙を持参する人もいれば、Blue bookと呼ばれる試験の答案専用のノートみたいなもの(25セント位)を買って試験を受ける人もいます。最初の試験では、当然私は解答用紙用の紙を持参していませんでしたが、友人が親切にも分けてくれたので事なきを得ました。ところ変われば、こんなに試験のシステムも変わるのです。驚きです。
Math Campが無事に終わってようやく大学院1年目の講義が始まります。経済学の場合、ミクロ経済学?マクロ経済学?計量経済学を1年目のコア科目として受講します。これらの講義は、予習?復習にかなりの時間を要すること、そして毎週大量の宿題が出るため、1年目は文字通り勉強漬けの毎日となります。
毎日勉強漬けの日々を過ごし、中間試験?期末試験に臨むのですが、ここでも自己努力ではどうにもならないことに直面します。それは、試験の過去問題の入手です。(毎年同じような問題が出されるため) 試験勉強は、過去問を繰り返し解くことが必須なのですが、過去問は講義では手に入りません。歴代の学生に受け継がれている過去問を持っている人に頼まなければ決して手に入れることが出来ないのです。私の場合、ラッキーなことに同級生が親切な人ばかりでしたので過去問を手に入れることが出来ましたが、もし親切な同級生に恵まれていなかったら試験にパスすることは無理だったと確信しています。ですので、皆さんがアメリカの大学院に留学したとしたら、過去問を持ってそう、かつ人の好さそうな人を頼ってみて下さい。
定期試験を乗り越え、5月になりようやく1年目が終わったと思ったら、今度待っているのは、夏休み明けに行われるComprehensive Examです。この試験はコア科目であるミクロ経済学?マクロ経済学?計量経済学の試験で、全部合格しなければ卒業できません。アメリカが野球の国だからなのか分かりませんが、この試験も3アウト制で、3回不合格だったら退学になってしまいます。この大変な試験が終わると2年目に突入します。
1年目を無事に乗り越え、大学からTeaching Assistant 又はGraduate Part-Time Instructorとして雇ってもらえるようになると2年目からは、自分の研究と大学の学部生への講義の両方に追われる日々になります。この間に2年生の終わりにこれから自分が取り組む論文を審査するPrelimと呼ばれる2人の先生が出席する口頭試験、論文を2本+α書き終わり、指導教官の先生の許可が出ると、Proposalと呼ばれる論文の口頭試験を受けます。このProposal試験に合格すると、もう卒業まで間近とようやくみなされ、就職活動を開始することが認められます。Proposal試験に合格し、論文を3本完成させて博士論文として提出できる準備が出来るようになり、指導教官の先生の許可が下りるとようやくDefenseと呼ばれる最終試験を受けることが出来ます。Defense試験では、5人の先生が出席し論文を審査するのですが、かなりボコボコにされしばらく落ち込んでいました。論文のDefenseが終わると、試験で指摘された箇所を直し、ようやく博士論文を提出ということになります。博士を取るまでに最短で5年で済むのがアメリカの博士課程ですが、私は7年かけてようやく取ることが出来ました。
このような感じで、アメリカの博士課程はハードですがその分得る物も大きいというのが私の実感です。博士取得まで7年もかかった落ちこぼれの私の体験談ですが、これからアメリカの大学院を目指す方の参考になれば幸いです。