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国際学部

Faculty of International Studies

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国際学部ニュース詳細

更新日:2019年10月14日

研究紹介

【国際学部】リレー?エッセイ2019(14)佐藤雄一「ちゃんと読もう」

ちゃんと読もう

佐藤雄一

 


次の文を読みなさい。

 

 Alexは男性にも女性にも使われる名前で、女性の名Alexandraの愛称であるが、男性の名Alexanderの愛称でもある。

 

この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを①~④のうちから1つ選びなさい。

 

 Alexandraの愛称は(     )である。

 

  ①Alex    ②Alexander    男性    女性


 

 特に難しい文ではないはずですが、この問題の正答率は中学生38%、高校生651となっています。高校生の3人に1人はこの文(中学の英語の教科書の「Alex」の注)が理解できていないということになります。

 

 AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(新井紀子 2018)では、RST(リーディングスキルテスト)によって、日本の中高生の読解力(もちろん母語である日本語の)が危機的状況であることを25,000人のデータから導き出しています。冒頭の問題がそのRSTの例題です。

 

 著者は2011年に「ロボットは東大に入れるか」という人工知能プロジェクトを立ち上げ、AIにはどこまでのことができるようになり、どのようなことができないのかを解明してきました。意味を理解することができないAIは、コミュニケーション能力や理解力が必要な仕事をこなすことは不可能です。では、コミュニケーションや理解力の基盤となっている、人間の理解力はどの程度なのか。それを明らかにするために中高生の読解力を調査した結果、危機的状況であることがわかりました。読解力はほとんどが高校卒業までに獲得されるもので、中高生の読解力が危機的状況であるということは、多くの日本人の読解力も決して楽観視できる状況ではないと、著者は警鐘を鳴らしています。

 

 『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』の続編として、AIに負けない子どもを育てる』が、20199月に出版されました。そこには、RST紙上体験版(実際のRSTはコンピュータ上で行われる)が掲載されており、「様々な分野の、事実について書かれている短い文章を正確に読めるかどうか」の能力を6分野7項目(係り受け解析、照応解決、同義文判定、推論、イメージ同定、具体例同定)の異なる観点から簡易的に診断できるようになっています。問題は28問あり、領域別の点数によってどんなタイプであるか、占いの結果のように診断結果が記述されています。例えば、「活字を読むことは嫌いではないし、知的好奇心はあるのに、理数系やコンピュータに対して苦手意識はありませんか?」のように。

 

 では、どうすれば読解力を伸ばすことができるのか。新井(2018)では、読書習慣や学習習慣、得意科目、スマホの1日の使用時間、新聞購読の有無など網羅的なアンケートを実施しましたが、読解力と目立った相関関係を示す因子は発見されなかったそうです。新井(2019)では、これまでのヒアリングや観察を通して著者が主観と論理から導き出したものと断ったうえで、リーディングスキルを向上させるための処方箋がいくつか示されていますが、幼児期から小学校高学年までのもので、残念ながら大学生に対するものはありません。ただし、大人の読解力については、飛躍的に読解力が向上した人(RSTの作問?レビューを担当2)の体験談が記されています。

 

 その体験談によると、自分が正確に読解できていないことに気づき、ゆっくりでもいいから正確に読むことを心がけたということです。一語一語の関係を正確に把握し、丁寧に文章を読み進めることによって、読解の基本である係り受け解析の力が向上したのではないかと振り返っています。私自身も受験勉強で英語の長文読解に時間を費やした結果、国語の長文読解ができるようになったという経験があります。単語同士の係り受けを意識して読む習慣が身についたのだと思います。

 

 読解力が向上すると、どのような文を書けば相手に正確に伝わるかがわかるようになるようです。体験談には、過去に自分が書いたメールを読みなおして、言いたいことがわからない文章を書いていたことに気づくとともに、自身の文章力が向上したことも実感できたことが記されています。

 

 ゆっくりと正確に文章を読むことが読解力の向上につながるのであれば、皆さんはその気になればいくらでも読解力を向上させることができる機会にめぐまれているのではないでしょうか。大学での日々の学びの中で、様々な分野の文章を読んで理解しなければならないはずです。授業のテキストや資料を読んでもよくわからないから、試験の前にとりあえずキーワードだけ覚えておこう、というような習慣が身についているとしたら、まずはそこから改めてみてはいかがでしょう。時間がかかっても、正確に読んで理解することが、読解力向上の近道になるのだと思います。先の体験談を書いた方は、半年で劇的に読解力が向上したそうです。ただ、正確に文章を読むという行為はかなり労力が要るようで、RSTの試験時間は35分間なのですが、受検者からは「こんなに長い35分を体験したことがない」といった声も聞かれるようです。

 

大学の学びの中で正確に文章を読む訓練を積んでいけば、就活であわててSPIの準備をしなくても、しっかりと対応できるはず(?)。就活だけではなく、仕事をしていくうえでも契約書を読んだりマニュアルを読んで理解したりと読解力は欠かせない能力です。AIに負けないように、しっかりと読解力をつける努力をしましょう。

 

「おまけ」に、RSTで正解率が低かった問題をひとつ。よく読んで考えてみてください。


次の文を読みなさい。

 

 アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても形が違うセルロースは分解できない。

 

この文章において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを①~④のうちから1つ選びなさい。

 

 セルロースは(     )と形が違う。

 

   ①デンプン       ②アミラーゼ    ③グルコース      酵素


 

1 全国の中学生235名、全国の高校生432名を対象に行った調査の結果。

2 RSTは達成度を測るテストではないので、体験談の執筆者がRSTの問題を数多く解いたため読解力が向上したと分析するのは適切ではないようです。

※ 問の正解はいずれも①です。

 

 

 

参考文献:新井紀子(2018)『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』東洋経済新報社

        (2019)『AIに負けない子どもを育てる』東洋経済新報社

    教育のための科学研究所HP https://www.s4e.jp/about-s4e